<   2015年 01月 ( 3 )   > この月の画像一覧

ikanika MUSIC SEASONING vol.7 Web Repot2



それでは後半戦です。
Arvo Partがちょっと重たかったので、
現世に立ち返りお正月ソングを聴きましょう。
お正月の歌はクリスマスソング以上に聴ける日数が限られています。
ぎりぎり成人の日までだろうということもありますし
(編集注:当イベントは2015年の成人の日に開催)。
Happy New Yearの曲ってあまり存在していないと思うんですが、
レコードラックを探して「やっぱりこれだろう」ということでユーミンです。
これは素晴らしいんです。歌詞がとにかくもう最高です。
聴いてみましょう。

松任谷由実/A Happy New Year


(拍手)
ありがとうございます。1981年の『昨晩お会いしましょう』という
アルバムに収録されています。
声が若いですよね。クリスマスにあれだけラブソングを歌って、
さらにお正月も愛しちゃう。忙しいですね(笑)。
皆さんは他にNew Year Songで思いつくものはありますか。
一応持ってきたのはU2の「New Year's Day」です。
でも、この場にそぐわないから止めようかとも思うんですが……。

観衆:聴きたい!

ちょっと聴いてみます? すごいんですよ、これは。
U2を一躍有名にした大ヒット曲です。
この『War』というアルバムの前に『Boy』というアルバムが出ていて、
ジャケットには同じ少年が写っているんです。
『Boy』のときは本当に可愛らしい
赤ちゃんみたいな顔で写っているのに、
その数年後にこうなっちゃう、衝撃的ですね。
83年の作品。
今まで聴いてきたものと音が違いますよ。

U2/New Year's Day


このPV覚えています? 
雪の中でコート着て、ギターを弾く。
そんなコート着てたらギター弾けないだろってやつ。
それと同じことをやったのがGLAYの「ウィンターアゲイン」ですね。
あれU2そのまんまです。
かっこいいですけどね。
ちなみに、このあいだ新聞で見たんですけど、
歌っているボノさんはセントラルパークを自転車で
走っていたところスッ転んで、
腕を骨折して「僕はもうギターを弾けないかもしれない」と
コメントしたそうです。

New Year Songではもうひとつ、
佐野元春の「Young Bloods」を持ってきています。
アナログ盤しかないんですが、
きょうはプレーヤーを持ってきているのに使ってないから
聴いてみましょうか。
いわゆるドーナツ盤です。
New Yearが歌い込まれているのは
「静かな冬のブルースに眠る この街のニューイヤーズ・デイ」という、
ここだけなんですが。聴きましょう。
33回転とか45回転とか、若い人にはわからないですよね。
これは45回転ですが、45回転は回転が速いんです。
回転が速いと何が良いかというと音質が良いんです。
音圧が高くなるというか。
12インチシングルという30センチ盤を
45回転で回すとビート感が上がるんですね。

佐野元春/Young Bloods


国際青年年というのがあって、それのテーマ曲でした。
代々木公園でゲリラ的にライブをして、
それをPVにしてまして、これがなかなかかっこいいんです。
ちなみにドラムはシータカ(古田たかし)さんです。
これを掛けた以上、実は元ネタも用意しておりまして。
もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、
この曲は何を隠そう、こちらが元ネタになっているんです。
聴いてみましょう。

The Style Council/Shout to The Top

(場内笑)

The Style Councilの84年の作品です。
この2年後にさきほどの「Young Bloods」が出ました。
好きだからマネしちゃいました的ですが、
マネしても、それなりに良くできていればいいんじゃないかな。
この「Shout to The Top」のドーナツ盤のジャケは
ひどいジャケ写で、シャウトしてますね。
New Year Songはこんなところにしておきます。

New Year Songではないんですが、
正月になると聴きたくなる曲があります。
もしかしたら以前、CMとかで正月に
掛かっていたせいなのか分からないんですけど、
正月になったら聴いてみようかなという気持ちになるのが
Timothy B.Schmitの「So Much in Love」。
なぜだか聴きたくなるんです。たしかミニコンポのCMです。
(編集注:パイオニアのミニコンポ「プライベート」のCM、83年)。
素敵な曲ですよ。

Timothy B.Schmit/So Much in Love


オリジナルは60年代のドゥワップ、The Tymesで、
それをティモシーBシュミットがカバーしたものです。
シュミットさんは「ホテルカリフォルニア」で有名なEaglesのベーシストです。
Eaglesもあとで聴いてみようかと思います。
「So Much in Love」は、そののちに我が敬愛する達郎さんも歌っています。
達郎バージョンもちょっと聴いてみますか。
「ON THE STREET CORNER」というアカペラシリーズの2枚目に入っています。
これは限定10万枚のLPでお高いものです。
そのうちにCD化したので値段は下がりましたが、
出た当時はすごいプレミアが付いていました。

山下達郎/So Much in Love


ライナーノーツを見ると、このアルバムが出たときに宣伝文句で
「山下達郎もびっくりなアカペラコーラス」と書いてあったのを
ご本人が読んで「だったら俺もやろうかな」ということになったと書いてありました。
さらに上を行ってしまおうという達郎の魂胆が丸見えな感じで、
ものすごくバランスの良いコーラスになっていますね。
さっきのティモシーBシュミットに戻ります。
彼がEaglesでリードを取ってヒットした曲があって、
僕も大変好きな曲があるのでご紹介したいと思います。
『The Long Run』というアルバムに入っている、
邦題は「言い出せなくて」。

Eagles/I Can't Tell You Why


たいていのEaglesの曲はドン・ヘンリーがボーカルを取っているので、
こういう甘い声のものは少なくて。
ドン・ヘンリーはドラムを叩きながら歌って、
ティモシーBシュミットはベースを弾きながら歌って、
もう一人グレン・フライというギタリストもボーカルを取るので
メインを取る人がいっぱいいます。
これはドン・ヘンリー。これはティモシーBシュミットというふうに、
それぞれにメインを取ります。
Eaglesつながりでお話しすると、
J.D.サウザーというシンガーソングライターもいます。
彼はEaglesのメンバーではないんですが、
『ハートエイクトゥナイト』や『The Sad Café』で
Eaglesのメンバーと共作しているんです。
だから“第三のEagles”みたいに言われています。
このアルバム『You're Only Lonely』は大ヒットしました。
職人肌で裏方の人なので地味な存在ですが、
好きな人は超好きな感じです。
ヒットしたのは1曲目の「You're Only Lonely」。
昔のロカビリー、ロックンロールをモチーフに、
西海岸のサウンドとミックスしたもので、ものすごくヒットして、
これで彼の名前が一躍世に出ました。
聴いたことあると思いますよ。

J.D.Souther/You're Only Lonely


これは80年代前半ですが、当時でも少し古のサウンドに聴こえていたものです。
聴いて分かるとおり、ものすごく歌が上手いので、
EaglesのコーラスにもJ.D.サウザーの声は結構入っています。
ここに、このレコードたちが横並びに置いてあるのには理由があります。
今聴いたアルバム(『You're Only Lonely』)の
演奏者ほぼそのままのメンバーで作ったアルバムがこちら
(『Dad Loves His Work』)です。
ほぼ同じメンバーで作っていて、
加えてJ.D.サウザーも参加していて、
これまた全米トップ5くらいまで行きました。
これもすごく大好きだったんですが、
LPは持っていてもCDは持っていなくて。
今なら3in1で安いんです。
だからCDも買って改めて聴いてみたら「やっぱ、すげえな」って思いました。
ジェイムス・テイラーとJ.D.サウザーが共作のうえ、
さらにデュエットもしている「Her Town Too」という曲を聴きます。
きょうのハイライトでもある感じです。

James Taylor/Her Town Too


お上手。なんだろう、このハーモニーの取り方がすごいですよね。
主線に対して、こんなハーモニーを取れる人は
あんまりいないんじゃないかな。
81年の作品でした。西海岸ものが続きましたね。

レジメに戻ります。聴いてないのが3曲ありますね。
ひとつ、まさに出たばかりの新譜があります。
出たばかりというより、インポートでもまだ日本では買えません。
でも、どうしても聴きたくて、ドイツのオフィシャルサイトにオーダーして
ECMから送ってもらったんです。
2月10日くらいの発売ですが、ドイツに頼んだら、
なぜか昨年末に来たんです(笑)
それくらい聴きたくてオーダーしちゃったんです。
Anouar Brahemはチュニジアの方です。
皆さんが見たことないようなウードという楽器を弾きます。
ウードはギターのような形をしていて、
似たものではリュードという楽器があります。
ウードとリュードの違いは何かというと、
リュードにはギターと同じようなフレットがあります。そこを押さえると音が出ます。
ウードはフレットがないんです。
いわゆるヴァイオリンと同じようなクラシックな形をしていて、
ちょっとした音程をつけるためのフレットがない。
そのウードの奏者です。
なぜ、これを聴きたくなったかというと長くなるんですが。
理由は、変な聞き方なんですが、
いわゆる小編成のバンドとオーケストラの編成の音源をずっと探していて、
その中にフィットしたということなんです。
たとえばピアノとベースがいて、そこにカルテットがついているとか。
ギターとベースがいて、そこにカルテットとか。
サックスがいて、そこにカルテットがついているとか。
そういう音源がどうしても聴きたくて、探して探して、
これに行き当たったんです。
ですので、ウードが聴きたかったというよりも、
この編成が聴きたかったわけです。
ジャケット写真は2011年1月の写真を採用していて、
チュニジアで革命が起こった年の写真だそうです。
いわゆるアラブの春といわれています。
前大統領が失脚して民主政治になったものの、いまだに荒れている状態で、
Brahemさんはチュニジアにはいられなくなり、
この年からヨーロッパに移り、創作活動もしばらくしてなかったんですが、
去年久しぶりにこれを作りました。
去年の8月に録音して11月に出ているので、
ECMにしては珍しく速い。
ECMは2、3年眠らせてリリースすることが多いんですが、
これはなぜか半年経たないうちに出ました。
ちょっとマニアな話になっていますね。
非常に政治的な背景を持って彼が書いているので、
さっきのArvo Partほどではないですけど、
ちょっと重い感じの作品ではあります。
ものすごく、ものすごく、感銘を受けた作品です。

Anouar Brahem/January


こういうのが延々と続きます。二枚組のアルバムで
全曲素晴らしいアレンジになっています。
あまり家でこういうどんよりしたのを聴いていると心配されるので(笑)、
お正月からヘッドフォンをして聴いていました。
まだ新譜です。気になった方は2月に日本でも買えます。
それまでに欲しければドイツに連絡を。
ということで、そろそろ終盤戦で、レジメでいうとあと2曲ありますが、
どうしようかな。Miles Davisを聴いてみましょうか。
毎回イベントのときには、このMiles Davisのポスターを持ってきます。
たいてい、マイルルはなにかしら1曲掛けていますが、
きょうはかなり挑戦的なものにしました。
鋼鉄のボックスに入っている、『Bitches Brew』という
1969年に録音された歴史的名盤。
革新的な作品といわれ、これを境にジャズの世界が
70年代に変わって行ったといわれています。
2枚組のアルバムも出ていますが、
この4枚組も出たので買ってしまいました。
このボックスを買って10年以上経つんですが、
いまだに全部を通しで聴けていないです。
なぜかというと、革新的な部分がいまだに分からないんです。
大絶賛する人が世の中にいっぱいいるんですけど、
僕の中では落としどころがまだ見つからないんです。
でも忘れた頃にまた思い出して聴いたりしています。
初体験の方も多いと思うので、2、3分聴いてみましょう。
曲自体は20分くらいあって、
聴いていると止まらなくなっちゃうので。

Miles Davis/Pharaoh’s Dance


これが延々と20分。20分どころじゃなく、こういう曲が2枚組。
「どうだ、聴け」っていう感じで存在しているわけです。
この4枚組セットはこのレコーディングセッションのすべてを
網羅したということで発売になったんですけど、
全部聴けるのはいつのことやらという感じです。
これがいわゆるマイルスのBitches Brew。機会があったら聴いてみてください。

レジメではあと1曲となりました。Opazです。
「One on One」は92年に発売された12インチシングルです。
その当時、僕は札幌にいて、
東京のレコード屋さんに行きたいと思いつつ、
月に1回の出張でしか行けなくて、
そのたびに買い貯めしていて出合ったものです。
当時はアシッドジャズがものすごく流行っていたのですが、
札幌のレコード屋さんにはなかなかアナログ盤が入ってこなくて、
でもこれがどうしても欲しくて、
出張の仕事を早々に切り上げてレコード屋に漁りに行ってゲットしたんです。
そしたら札幌に帰ったら札幌にもあったんですけど(笑)
なぜこれが欲しいと思ったかといえば、
雑誌のレビューに「クラブのアフターアワーズ
(メインのダンスフロアが終わったあとに掛ける曲)にうってつけ」
と書いてあって、謳い文句が「午前3時の音」で、若かったので
「午前3時って気持ちいいよな」って思って買った作品です。
Opazはプロダクション名でRay Haydenという
白人ヴォーカリスト兼プロデューサーが歌を歌うんですが、
この曲はMica Parisというイギリス人の
黒人の女性ヴォーカリストとデュエットしているんです。
さあ聴いてみましょう。
30センチ盤を45回転で回します。

Opaz/One on One


結構ヘビーローテーションしてたので、
溝がガタガタで割れてましたね。
Opazはそののちメジャーな仕事もしていて、
スイングアウトシスターズをプロデュースしたり、
イギリスではそれなりの仕事をしていました。
今何しているのかは分かりませんが。
いわゆるアシッドジャズの黎明期の楽曲でございました。

とういうことで、そろそろ9時ですね。お決まりの最後。
最後はですね。初めての方にとっては、なんのこっちゃですね。
この回の決まり事で、最後は山下達郎を聴いて
終わることになっているんです、はい。
きょうは途中で「So Much in Love」を聴きましたので、
アカペラとは違うものにします。
これに決めた理由はというと、
昨年末にテレビを見ていると「うわ、またきた」というほど、
よく掛かっていたんです。
これです、「踊ろよ、フィッシュ」。アナログのドーナツ盤です。

観衆:おおおー。

出た当時は全日空沖縄キャンペーンソングでして、
夏の沖縄に行こう的な、
夏っぽい作品をと依頼されて達郎さんが作りました。
年末に掛かっていたのは車のCMでしたが……。
20年くらい前の作品ですが、
改めて聴いたら、本人も若かったのもあって、
ものすごい勢いがあって、良く出来上がっています。
これにはアルバムヴァージョンとシングルヴァージョンがありまして、
テレビで掛かっていたのはシングルヴァージョンなんです。
ふふふ。なぜ分かったかというと歌詞が違うんです。
テレビCMでは、サビの歌詞が
「踊ろよフィッシュ まぶしいキッス 踊ろよBaby」というフレーズでした。
で、シングルを見るとシングルはそうなっています。
いっぽうアルバムを見ると
「踊ろよフィッシュ まぶしいキッス おくれよBaby」なので、
歌詞的に言うと「まぶしいキッスおくれよBaby」とのちのち直したくなって、
アルバムを作るときに達郎さんが変えて歌ったんです。
ですので、アルバムを聴くと「おくれよBaby」で、
シングルを聴くと「踊ろよBaby」と歌っています。
たかだか「おくれよ」と「おどろよ」の二文字だけが
違うところが気になって録り直したという。
加えて、ミックスがちょっと違って、
シングルは派手ぎみですがアルバムは
微妙に地味に落ち着いています。
もうひとつは、アウトロの4分20秒にドラムとベースがミュートされて
コーラスだけが残るパートが2拍くらいあるんですが、
あるのはシングル盤だけなんです。アルバムを聴くと、
そこは通しでリズム隊が入っています。
その3つが違うことを発見しました。
きょうはシングル盤を聴きます。
この音源は幸いなことに「トレジャーズ」というベスト盤に入っているので、
音的に良いほうで聴きたいと思います。
4分20秒のところまで聴きましょうね。

山下達郎/踊ろよ、フィッシュ


わかりましたか、4分20秒のあれ。へへへーーっ。
あれがないのがアルバムヴァージョンです!!
ということで終わります。
ありがとうございました。まだ飲んでもらって大丈夫ですよ。

(拍手)


2015年1月12日
於 ohanaya
選曲、お話 平井康二
[PR]
by ikanika | 2015-01-30 23:53 | Comments(0)

ikanika MUSIC SEASONING vol.7 Web Repot1

ikanika
MUSIC SEASONING vol.7at ohanaya
2015.1.12

New Year, New Sounds


えっと……、半年ぶりの開催となります(苦笑)
きょうはohanayaさんをお借りしてという初の試みです。
きょうが初めてという方もいらっしゃるので、
「いったいこれは何のイベントだ?」というところから。
発端は、カフェで掛けている曲について「この曲何ですか?」と
聞かれることが多々あって、
答えていくうちに「だったら、これでイベントをやろうか」と思ったのわけです。
ちょうど3年くらい前の夏の会が最初で、その年の秋から定例化していって。
最初の頃は3カ月に1回やっていたんですけど、
だんだん延びてしまい、今回は半年ぶりです。
7回目ともなると、もはや「カフェで掛けているかどうか」は
あまり関係なくなってきました(笑)。
もう、そのときの気分で選ぶという感じです。
さらにきょうは場所がohanayaさんなので、
通常、ikanikaでは「いろんな理由があって掛けません」と
僕の中で決めているものも含めて持参してきています。
ikanikaはわりとまったりとした雰囲気なので、
それに合わせてセレクトしているということもあるのですが、
きょうは場所も変わって、駅前の都会に来ているので、
ちょっと強めの選曲にします。
いちおう、New Year, New Soundsをタイトルにしているので、
新年にまつわる曲がありつつも、
ポイントポイントで新しい音楽を入れています。
それは決して時代が古い新しいということでだけはなくて、
いろんな切り口でこれは新しいというか、
革新的だったりするものを意識して選んできています。
皆さん、それぞれに音楽体験が違うと思うのですが、
きょう選んできたものは僕の中で「これはきたネ」というポイントのものを
ご紹介していきます。
お手元のレジメには10曲紹介してあります。
毎回そうなんですが、これは最低限、
この10曲は掛けますという宣言です。
脱線して戻れなくなることもあるので。いつもだいたい30曲は聴くので
レジメの10曲プラス脱線する20曲という感じで掛けていきます。

きょうはいつものJBLのスピーカーを持ってきていますが、
前回と変わったところはケーブルです。
BELDENというプロ用のケーブルでつなぎました。
自分の中では「変わったな」と思っております。
まあ、初めての方はそんな比較はできないんですが。
アナログも持ってきているので、アナログで聴けるものは敢えて
アナログで聴こうかと思っています。
なんかね、やっぱり違うんですよ。えっ。早く掛けろって? 
では、アナログの話はのちほど……。

ではでは。1曲目は決めてきています。
これはネタの宝庫で。まず新しいです。去年の11月の後半に出た作品です。
聴いたことのある方もいらっしゃると思います。
以前も1曲だけ紹介したことがあるRumer(ルーマー)
というイギリスの女性ヴォーカリストです。確か母親はパキスタンの人です。
すでに36歳くらいですが、2010年にデビューして、
2年後にカヴァーの作品ばかりを集めたアルバムを出して、
そしてこれが3枚目の作品です。ここ最近は、
あまりもう新しい人のものは買わなくなっているのですが、
ずっとチェックして待ち望んでいました。
曲はアルバム一曲目の「Dangerous」。
正確に言うと、アルバムの一番最初にイントロがあるので、
そこから聴きます。これはikanikaで掛けても意外と大丈夫かなというものです。


Rumer/Dangerous

たぶんJ-WAVEのチャートにも入っているので、よく流れていると思います。
前に一度紹介したときは一枚目のアルバム(『SEASONS OF MY SOUL』)で、
声がカーペンターズのカレン・カーペンターズみたいだねと
ご紹介したんですけれど、
今回は僕がこれで何を聴いているかというと、
いろんなレビューを見ると必ず言われている
「見事なフィリー調のサウンドね」みたいな言葉があって
「フィリー調って何ですか」というところ。
今回はまずそこをご紹介したいと思って。
フィリーとは何か。簡単に言うと、「フィラデルフィア」なんです。
じゃあなんでフィラデルフィアがこれなのかというと、
フィラデルフィア・インターナショナル・レコードというのが1970年代にあって、
そこで作られたサウンドを「フィリーサウンド」と呼びます。
フィラデルフィア・インターナショナル・レコードはPIRと略されますが、
フィラデルフィアにシグマサウンドというスタジオがあって
そこで録音された一連のものをフィリーサウンドと言います。
そこには、ザ・サウンド・オブ・フィラデルフィア(TSOP)っていう、
いわゆるハウスバンドがいて、TSOPのミュージシャンをメインに録音したのが
フィリーサウンドで一大ムーブメントとなりました。
そのサウンドを踏襲しているのが「Dangerous」なわけです。
なので、元々のフィリーサウンドの代表といえるものを聴いてみたいと思います。
フィリーの代表格は、バンドでいうとThe O'Jays、
ソロでいうとTeddy Pendergrassというあたりが、
二大ドル箱アーティストです。どちらかというと、
今のダンスっぽいのはThe O'Jaysの系統ですので、
The O'Jaysを聴いてみたいと思います。
これぞフィリーサウンドです。Rumerのボーカルの
カレン・カーペンターズ感というのは今回は一切関係ありません。
ストリングスのシャーーーーッというのとか、ディスコっぽいところとか。
これはThe O'Jaysの中でもそんなに古いものではなくて
76年の「Message in Our Music」。
秀逸な作品です、聴いてみましょう。


The O'Jays/Message in Our Music

わかります? このシャーーーーッていうの。
こういうことをフィラデルフィアサウンドはずっとやっていました。
もうひとつ、バラードの重みのあるものを掛けますか。
もう一人のドル箱、Teddy Pendergrass。
Teddy Pendergrassは82年頃に交通事故に遭ってしまい車椅子生活になります。
黒人セックスシンボルと呼ばれていて
「Teddyの声で女性は濡れる」と言われていたのですが、
車椅子になってもずっと活動を続けていたのですが、59歳で亡くなりました。
黒人のソウルミュージックってけっこう直接的にエロイことを歌うんです。
まさにその筆頭でございまして。
聴いてみたいのは「Turn Off The Lights(電気を消して)」。


Teddy Pendergrass/Turn Off The Lights


このストリングス! 
わかりました? そのまま歌ってますよねえ。
「私の体を洗って」みたいなことを歌って、これで一世を風靡しました。
実はこのアルバムの中に絶対に皆さんが100%聴いたことがある曲があるので、
ちょっと聴いてみますか。
これこれ。「Do Me」。ひげダンスの曲はこれなんです。
日本ではひげダンスに使われたおかげで、
お笑いアルバムみたいになっているんですけれど、
本国ではテディはあくまでもセックスシンボルです、はい。


さっきのRumerに戻ります。フィリーサウンドのこともあるのですが、もうひとつ、
これが非常に気になったのは「Dangerous」の前に入っているイントロの部分。
♪チャラランランラランというメロディー。
これは一応本人の書き下ろしのオリジナルなんですが、
僕の中では「これって、あの曲だな」というのがあって。
まあ、パクッたわけじゃないんでしょうけど、
「このフレーズはこれじゃん」というのがあるので聴いてみましょう。
ほらほら、このイントロが一緒でございまして。
これは1977年の作品。すごく良い曲です。では。

Roberta Flack/The Closer I Get to You


うーん。素晴らしい。ロバータフラックの「The Closer I Get to Tou」という曲です。
一緒に歌っている男性はダニー・ハサウェイ。
ここからさらにマニアックな聞き方になるんですが、
このRumerのアルバムのクレジットをよく見ると
ミキシング・エンジニアというのがあって、ミックスは誰だと見てみたら、
マイケルHブラウアーだったんですね。「うわ! なんと!」と思いましたよ。
マイケルHブラウアーは何をした人かというと、
80年代前半からニューヨークのソウルミュージックものであったり、
ここ最近ですとコールドプレイとかをやっている超売れっ子なんですよ。
エレクトリック・レディ・スタジオというニューヨークのスタジオのメインミキサーです。
このクレジットを見たとたんに、マイケルHブラウアーも聴いちゃおうかなと。
マイケルHブラウアーがやったのはどれか探してきたら山ほどあって。
でも延々と脱線し続けるのはいけないので、
レジメの中の曲でマイケルHブラウアーがやったのを探してみたら1曲だけあったんです。
Elbow Bones & The Racketeersの「A Night in New York」。
1982年の作品なので、今から30年くらい前ですかね。
これね、実は語り継がれる名曲なんです。知っている人は知っているはずです。
ちょっと聴いてみましょう。素晴らしいですよ。

Elbow Bones & The Racketeers/A Night in New York


いわゆるリズム隊は打ち込みがメインですが、ビッグバンドは生でやっていて、
このアレンジが肝かなという感じですね。
このバンドはこの一枚で終わっています。終わったというか、
覆面バンド企画でこれだけ出しちゃった感じなんです。
オーガストダーネルという、こういうサウンドを手掛けるおじさんがいて、
キッドクレオール&ココナッツというバンドがあるんですが、
その覆面バンドという感じですかね。
このキュートなボーカルとバンドとアレンジャーを集めて
Elbow Bones& The Racketeersを作って、
この1曲を作って、チャートで一位を獲ったんです。
そして「解散」みたいな。なので、これ以降の作品は出ていません。
加えてアルバムもこの曲以外はそんなでもないかな。
これ1曲だけが聴きたい(笑)。
僕はこれを中学生のときにカセットテープに録音してずっと聴いていて、
大学生になってから思い出したみたいに
「そういえば、あの曲CDになっているかな」と探して買ったのがこれです。
そうしたら、当時、これの12インチリミックス盤みたいなのが出てたんですけど、
それをCD化して付け加えたものが去年出たので、また買っちゃいました。
アハハハ。なので、こちらにはリミックス盤が入っているのでお買い得ですよ。
以上、Elbow Bones& The Racketeersでした。

何からElbow Bones& The Racketeersに来たかというと
マイケルHブラウアーでしたね。
もう一曲だけマイケルHブラウアーものを聴きましょう。
80年代のこのへんのサウンドをどうしてもやりたいという日本人がいまして、
それがご存じの角松敏生さんです。
見事にマイケルとドラマーのヨギ・ホートンを使い、ニューヨークで作り、
出来上がった作品があるんです。
角松さんは、その時代の最先端のものを常にやっちゃんですね。
そうすると時間が経つとどうしても古くなっちゃうんです。
同じ80年代前半なんですが、そのときに流行った打ち込みのクラップの音とかを
ふんだんに使ってしまうので、
今聴くと、ウーーンというところが箇所箇所に残っているということがあります。。
よくサウンド感の対比で達郎さんと比較されますが、
達郎さんはそういうことはしないんです。
流行りのものを大げさに取り入れないので、数十年経っても古くならない。
角松さんは毎年新しいことをやっちゃう。
とはいえ、その中でも今聴いてもそこそこ大丈夫かなと思う曲があります。
ドラムにヨギ・ホートン、ベースにマーカス・ミラーを使っていて、
この二人のリズム隊のお手本みたいな作品になっています。
聴いてみましょう。パン! パン! というクラップが入っていますが、
そこはご了承ください。

角松敏生/初恋


80年代の音ですねえ。
もっと言っちゃうと、角松さんは何をやりたかったかというと、
彼はこれをやりたかったんです。

Luther Vandross/Never Too Much


サウンド構成がほぼ一緒ですよね。
81年に出たLuther Vandrossのデビュー作品で、
ディスコでヒットしましたね。これを角松さんはやりたかった。
これもマイケルHブラウアーです。
延々と続いてしまうので止めましょう。
どうしようかな。しばらくソウル系が続いているので、そのままソウル系でいきます。
さっき「The Closer I Get to Tou」というデュエットの曲を聴きましたが、
あれを書いたのはMtumeさんです。
ジェイムス・エムトゥーメーさんはこんな顔をしていますが、(LPジャケットを見せる)
さっきのあんなロマンチックな曲を書いたんです。
元々は、70年代前半にマイルス・デイビス・バンドで
パーカッションやちょっとしたシンセみたいなことをちょろちょろっとして、
そののちに自分の名前のバンドを作って曲も書き、
割とヒット曲も書いているのですが、
そんなには一般的に有名ではないですが、業界内では有名です。
ものすごくヒットした曲もあるんです。それが、この「Juicy Fruit」。
これは、さきほどのTeddy Pendergrass張りに、シモに行っています。
シモな曲です。
1983年のリリースで、ビルボードR&Bのチャートでベストテンにも入りました。
近年だと、これをサンプリングして、いろんなヒップホップのアーティストが
ネタとして使っています。
かなり直接的にシモの歌ですので心して聴いてください。

Mtume/Juicy Fruit

歌っているのはMtumeの奥さんで、タワサ・アジーさん。
例えばLuther Vandrossのバックコーラスもやっていまして、
いわゆるスタジオでファーストコールされるコーラスのお姉さんなんですが、
その人がリードをとっています。
1983年という年がなぜか、こういうシモ系の代表曲が量産されております。
その一年前にはヒットしたマービン・ゲイの「Sexual Healing」があって、
翌年にはJuicy Fruitとほぼ同じ時期に出て
Juicy Fruitと同じくらい直接的エロで、
いまだによくサンプリングされている曲があります。
それがThe Isley Brothersの、その名も「Between The Sheets」です。
同じく83年に出ているんですが、皆さん絶対知ってます。
聞いてみましょうか。

The Isley Brothers/Between The Sheets

で、このアルバムの他の曲もちょっと聞いてみましょうか。
(2~3曲さわりを聞く)
みんなこんな感じです、で、
これをやりたいという日本人が出てくるんです。
これも100%皆さん知っています。


竹内まりや/Oh No,Oh Yes!

さっきのとどこが違うんだという感じでしょ。
まあ、歌詞も見事な不倫ソング。1987年で、まだ若いまりやさんでした。
ブラックミュージックばかり聴いてしまったので、そろそろ止めたいと思います。
またあとで時間があれば。
レジメに戻ります。まだ3曲くらいしか聴いてませんね。。。
気分を換えて、Magicoに行きましょうか。
これはikanikaでもよく掛けていますが。
ともあれ聴いてみましょうか。リリース自体は去年出ているものです。


Magico/Carta de Amor


Magicoは、僕が好きなECMというドイツのレーベルからリリースされていて、
ヤン・ガルバレクというソプラノ・テナーサックス奏者、
ギターを引くエグベルト・ジスモンチ、
チャーリー・ヘイデンというベーシストの3人。
ECMのための企画バンドですね。
今聴いてもらったのは81年のミュンヘンでのライブです。
Magico自体は80年代にアルバム2枚しか出ませんでした。
3人とも超ビッグネームなので、それぞれがそれぞれの活動をして、
この時代だけ2枚のアルバムを残しました。

このMagicoのメンバーの中で、
ちょうど前回、チャーリー・ヘイデンを追悼しました。
開催の前日に亡くなって、非常に悲しい思いで選曲した記憶があります。

同じくECMの昔の音源で、去年の年末にリリースされたものがあります。
1972年の音源で、これにもチャーリー・ヘイデンが関わっています。
このジャケットデザイン、実はきょうのレジメのレイアウトに拝借しました。
年末にリリースされて、いわゆるジャズのコーナーでは
「ついに出た」と大騒ぎになりました。
キース・ジャレットと、チャーリー・ヘイデンとポール・モチアンによる
トリオの1972年の音源が40年経った今リリースされたという作品です。
聴いてみましょうか。1972年というのはキース・ジャレットが
ソロアルバムを初めて出したのと同じ年です。
ラジオの公開番組かなにかで演奏した音源で、]
いわゆるブートレグ盤は出回っていたのですが、
正規盤で出たのは初めてです。

Keith Jarret,Charlie Haden,Paul Motian/Rainbow


一人で酒でも飲みながら、ゆっくり聴きたい感じですね。
さすがに神がかり的な演奏がずっと続きます。
40年以上も前ですが、記録音源が未だに売れるというのはすごいことですね。
ECMつながりで、前半戦はこれを聴いて休憩します。
レジメの中に2つECMものがあって、前半で最後の一曲にと思っているのは、
Arvo Partの「Cantus in Memory of Benjamin Britten」です。
たまにohanayaさんでも掛かってたりしますね、ペルトは。
ペルトの大ヒットアルバムです。
ペルトはバルト3国のエストニアの現代音楽の作曲家で、
1970年代半ばに出てきて、
このアルバム『タブラ・ラサ』は1977年に出したものです。
『タブラ・ラサ』とはラテン語で白紙の状態という意味だそうです。
白紙ではなく状態として、例えばロウ引きの壁にさらにロウを塗って
何もなくしたまっさらな状態がタブラ・ラサ。
それがタイトルになっています。
ECMが始めたニューシリーズというレーベルが
70年後半に出てきたんですけど、
そこから出して大ヒットしたそうです。僕はその当時は知りませんでした。
買ったのは10年くらい前なんですが、
どんなものか試しに聴いてみようと買って、正直、衝撃を受けましたね。
ヒットしたのもわかるというか、こういう音楽が世の中にあったんだと。
それまで聴いてきたものと全く違う世界観で、びっくりして。
ベンジャミン・ブリテンという作曲家への追悼曲として
Arvo Partが書いたものです。
ぴったり5分なんですが、黙って目をつぶったりして、
聴いてみて欲しいんです。
もっと言うと、ちょっと暗くして聴いてみましょうか。
そんな曲です。
では。


Arvo Part/Cantus in Memory of Benjamin Britten

ということで。。。では前半終わります。


=後半につづく=
[PR]
by ikanika | 2015-01-27 00:00 | Comments(0)

一人の居場所#22~#29

一人の居場所 #22

ある新しい朝
遠くの空にオレンジ色の太陽が昇る
空気は冷たく
きみの息を白くし 僕の耳たぶを赤くする

もさもさと毛布から這い出たきみは
そのままストーブの前にしゃがみこむ
まだ冷たい水道で顔を洗う勇気はないし
お湯で洗うとカサカサしてしまうしとぼんやり考える

コーヒーを淹れるために僕はお湯を沸かす
やかんの湯気が冷たい耳たぶを溶かし始める
二人分には少し豆が少ないかな
今日買いに行かなくてはいけないな
とぼんやり考えながら豆を挽く

オレンジ色の空に少し青が足される
鳥が目を覚ましスピードを上げて飛んでいく
一日の始まりはいつも
僕らに与えられた自由は無限のように思える
たとえきみが明日遠くへ行ってしまうとしても

ストーブの前のきみは、すっくと立ちあがりこう言う
「コーヒー豆、買いに行かなくちゃね」


20140106




一人の居場所 #23

その年老いたピアニストはラブソングが得意だった。
恋をした女性に上手に気持ちを伝えられなかったから。
『もし、恰好よく口説くことが出来ていたら、
ピアノなんかに向かわなかっただろうよ。
だって、冷たい白黒の鍵盤なんか叩いているより、
彼女の手を握っていた方がどれだけ気持ちいいか想像してみなよ。
女の手を握れない奴がピアノなんかを弾くんだよ。
でもな、鍵盤を前にすると、目の前にそのきれいな女性が現れるんだ、
それで曲をつくるんだから全部ラブソングさ。』


その年老いた詩人は、まるでラブレターを書くように詩を紡ぐ。
16歳の時、好きだった隣の家の男の子が引っ越してしまったから。
『だって、今みたいに携帯電話とかない時代でしょ。
だから、毎日手紙を書いたの。
そう、ほんとうにどうでもいいような話題よ、
庭のブルーベリーの実を鳥が全部食べてしまったとか、
裏の池に誰かがワニを放してしまって、警官が五人がかりで捕まえたとか、
そんなようなこと。全然ロマンチックじゃないの。
でもね、ペンを持って紙に向かうと
まるで彼が目の前に居るような気持ちになるの、それが恋ね。
だから、ワニの話だってわたしにとってはラブレターみたいなものよ。』

たぶん、世界の大半は、上手くいかない恋で出来ているのかもね。


20140301




一人の居場所 #24

愛すること
信じること
生きること
抱きしめること
そばに居ること
笑うこと
夢みること
歩き続けること
忘れないこと
変わらないこと
見守ること
待つこと
祈ること
そして、
静かに眠ること

すべては、きみのため



20140530





一人の居場所 #25


今日は一日中雨。
空も地面もきみの髪も
深海から引き揚げられた魚のように
じっとりと濡れている。
きみは髪がまとまらないと少し困り顔。

今日は久しぶりの晴れ間。
風がきみの髪をなびかせ、
光が頬を照らすと眩しそうに目を細める。
きみは日に焼けてしまうと少し困り顔。

雨も太陽もきみの味方ではないようだ。

再び今日も一日中雨。
きみはお気に入りの長靴をはいて、
まるで小学生みたいに、わざと水たまりを歩いていく。
なんだか気持ちがいいと上機嫌。

夏の日差しが照りつけ始めた日、
きみはつばの大きな麦わら帽子と
風に大きく靡くスカートをはいて
自転車で疾走してくる。
風が気持ちいいと上機嫌。

どうやら、いつの間にか雨と太陽と仲良くなったみたい。

20140608






一人の居場所 #26

あの夏、ぼくらは白いボートに乗って南の島へ渡った。
宿の老婆は「島は初めてかい?」と日に焼けた笑顔で迎えてくれた。
すこし癖のある味付けのごはんと強いお酒を飲んで
島の一日はゆっくりと過ぎていった。
夜の砂浜は沢山の星が輝き、月の光が海に轍を作り、
ぼくらは黙って海辺に座り、
少しだけ遠い未来のことを考えていた。

朝から強い日差しが照りつけ、
木陰からは一歩も出ずに一日が過ぎる。
夜になるとぼくらは、小さな島の隅々まで探索した。
誰もいない小さな学校のプールを見つけて、こっそり忍び込んだ。
きみは、仰向けになってぷかぷかと浮いたまま夜空を見つめていた。
水が苦手なぼくは、プールサイドに腰掛けて、足をバタバタさせて、
揺らめくプールの水面をぼんやり見ていた。

「ねぇ、明日帰るんだよね?」ときみは水に浮かんだまま言う。
「うん。」
「帰ったら、また、一緒かなぁ。」
ぼくは、彼女の言う、“一緒”の意味が分からずに、少し戸惑う。
「一緒、って何が?」
「いままでと同じ毎日がまた来るのかなぁ、ってこと。」
「...そういうことか。たぶん、そうかも。」
「このまま、一生ぷかぷかしてらんないもんね。」

「でもね、一緒じゃないこともあるかもしれない。」
「たとえば?」

その夏、ぼくは少しだけ未来のことが見えはじめた気がした。

20140722








一人の居場所 #27

ある日突然、
そう遠くない未来に別れが訪れることを告げられる。
たぶんとか、もしかしたら、とか、
曖昧な言葉が入り込む余地の無い事実として。
何の準備もない別れを前に、
僕らは何も言葉を持つことが出来ない。
その事実を受け入れる為に
ただ必死にもがくくらいしか出来ない。

それでも、その未来は容赦なく近づいてくる。
そして、今さら僕らは気付くのだ。
あなたと過ごした日々が
どれほど今の僕らの糧になっているのかを。
それでも、僕らは、
あなたへの言葉を持つことが出来ない。
何かを口にすれば、
それは、別れを事実として受け入れてしまうことになってしまうから。
未来はいつまでも未来ではないことを知っているとしてもだ。


20140909



一人の居場所 #28


夏の名残りを感じる間もなく秋風が吹きはじめ、
金木犀が香り、夕暮れが早くなる。
深まりゆく秋は、夏の記憶を遠くへ押しやり、
やがて訪れる次の季節への準備をはじめている。

季節に取り残されているように感じるのは、
夏にやり残したことがあるからなのかもしれない。
木々の葉が落ちてしまう前にきみに会いに行くことにする。
この夏に伝えたかったことがいつまでも消えずに残っているから。

今ならまだ間に合うといいのだけれど。

20141007



一人の居場所 #29

きみは過ちを指摘される
でも素直には受け入れられないでいる
反論をしてみても
なんだか言い訳めいていると感じている
進んでいる方角がどちらを向いているのか
はっきりとは分かっていない
その居心地の悪さは
どこかで何かを間違ってしまっているからだ、と
薄々感じている
引き返せる場所があるならば
そこまで戻りたいと思っている

そういう自分と冷静に向き合うことが出来るようになった頃には
大抵の物事が手遅れになっていることに気付く
積み重なった沢山の手遅れの上を歩いている

大切なのは少しずつでも軌道を修正する勇気をもつこと
過ちを無くすことなど僕らには到底出来ないことなのだから


20141103
[PR]
by ikanika | 2015-01-07 11:14 | Comments(0)


cafeイカニカ コラム


by cafeikanika

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

カテゴリ

全体
未分類

以前の記事

2018年 12月
2018年 08月
2018年 06月
2018年 04月
2018年 03月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 01月
2016年 10月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 11月
2015年 09月
2015年 07月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 01月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 08月
2010年 06月
2010年 04月
2010年 01月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 07月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 02月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 07月
2006年 05月
2006年 02月
2005年 12月
2005年 10月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月

記事ランキング

画像一覧