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feminite _ フェミニテ PT/10 最終話





PT/10





 


 片手に写真、もう片方の腕で成海さんを抱きかかえるようにギャラリーを出た。スマホの地図で、住所を確認すると、ほぼ真っ直ぐに行けばいいようなので、迷わずに着けそうだった。

 「いいですよ」と、答えてみたものの、今まで行ったことのない成海さんの部屋に、自分が連れて行っていいのかと思う。それも、こんなに酔っている状態で、と。しかし、送っていく役目は、自分以外には考えられない。

 「もう他人同士じゃないんだ」という、昔から好きな歌の歌詞が思い浮かぶ。あの歌は、他に何を歌っていただろうか。歌詞が断片的に思い浮かぶ。 「町を歩く二人に地図はいらないぜ 死んでる噴水 酒場 カナリヤの歌」、それに「生活という、うすのろ」と歌っていたのも、その歌だった。「あなたと暮らしていきたい」とストレートに言う主人公の言葉が、初めて聞いた当時、中学生だった自分には、ちょっと恥ずかしかったことも思い出す。成海さんは、恭史の片腕にもたれかかり、時折、大きく深呼吸をしている。「生活という うすのろを乗り越えて」と、歌は終わっていた。





「大丈夫? 成海さん」

「はい」

「一応、家まで送るから」

「ありがとうございます」

「飲みすぎだよ」

「そんなに、飲んでないです」

「でも、こんなに」

「わざとです」

「わざと?」

「はい」


 成海さんは、さらに強く恭史の右腕にしがみつき

「気持ちいいですね」と言う。恭史が黙っていると

「気持ちいい夜ですね、ねっ」と念を押す。

 どこまで酔っているのかわからない。

「うん、風がね」


「私の部屋からね」

「うん」

「月がよく見えるの」

「今日は満月とか?」

「違うと思う」

「ここからだと、月がどこにあるのかわからないね」

「でも、私の部屋のベランダからは見えるよ、きっと」



「着いたよ、ここだよね?」

「そう、七階」

「じゃあ、上まで」

「うん、少しだけ上がっていって」

「ありがとう」


 成海さんの部屋は、恭史が想像していたよりも、がらんとしていて、女性の一人暮らしという一般的なイメージとは違っていた。帰国してから、まだ何も買い揃えていない、という状態のまま生活しているように思えた。

「何もない部屋でしょ?」

 成海さんは、家に着いたせいなのか、さっきまでの酔いが、ずいぶん醒めているようだった。




「その紙袋は、なに?」

「田中さんから。写真。成海さんの」

「私の?」

「そう、成海さんの手。もう一枚あったんだって、あの写真。だから、これは僕が持っていて、って」

「そっか、そうよね、確か四枚プリントしてくれたのに、私、三枚しか恭史さんのところに持っていかなかったなぁ、って、その時思ってたの」

「そうなんだ」

「どこにいっちゃったんだろうって思ってた。よかった」


「この一枚は、この部屋に飾る?」

「うん、でも、どうしようかなぁ」

「そうしなよ」

「でもいいけど」 




「帰国してから、ほとんど何も買っていないとか?」

「そう、必要最小限なものしか」

「そんな風に見える。どうして?」

「どうしてか、わかる?」

「いや、わからない」

「考えて」





「例えば、すぐに引っ越すつもりだったり?」

「だいたいあってる」

「じゃあ、一緒に住もうと思えば、すぐにそう出来るね」






「もう少し、違う言い方は、ないの?」

「例えば?」

「考えて」







「一緒に暮らそうか」

「はい」

「はい、って、それだけ?」

「他に、なに言えばいいの?」

「まぁ、そうだけど」







「今日、このまま一緒にいて」

「はい」

「それだけ?」

「成海さんの真似」






「ほら、月」

「ほんとだ」






「ハーフムーンくらいね」

「うん」






「いつ満月かな?」

「さあ」










「少し香りが残っている、シャツに」





「覚えた?名前?」





「えっ、覚えなくていいって言ったから。

 でも、香りは覚えた。

 森の中にいるような感じがする、

 こうやって深呼吸したくなるような」





「そう。昔、恭史さんにあげた

 セードルブルーと混ざると

 私たちの森の香りになるの」 





「なるほど」





「本当にわかってる?」

「わかってるよ」






「灯してみようか」

「お願い」















「あの写真、四枚揃うことになる」

「でしょ」

「でしょ、って?」









「どこに飾るの? 写真」

「新しい森」

「楽しみ」







「あした雨降るのかな?」

「晴れるみたいだよ」

「嬉しい」







「じゃあ、なにする?」

「散歩」

「それだけ?」







「あとは」

「なに?」

「起きたら考えようか」

「うん」










「おやすみ」

「おやすみなさい」











おわり。








feminite _ フェミニテ PT/10 最終話_d0027035_22480782.jpg


-------------------------------

あとがき



以下、創作にあたり、

インスピレーションを頂いた方々、

そしてアイテムです。

この場を借りて、お礼を。



L'artisan Parfumeur_CEDRE BLEU

Serge Lutense_Feminite du boi

Peter Arnell_made in brooklyn

James Taylor_Her Town Too

佐野元春_情けない週末

吉田美奈子_少しだけ…

magico_carta de amor

EPO_THE BALLADS

aiko

K&K

Iさん

Hちゃん

そして

Yさん、ありがとう。







by ikanika | 2020-05-17 00:25 | Comments(0)


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by cafeikanika

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