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feminite _ フェミニテ PT/05




PT/05





「どうして上手くいかなかったんだろう、あの時?」

 二回目の答えあわせは、成海さんの、その問いから始まった。それは、恭史には、答えのない問い、のように思えた。「そうなることになっていた」それが唯一の答えだと。しかし、成海さんは、その答えを求めていた。そのピースは、二人がこれから見ようとしている景色を完成させる為には、必要不可欠なピースだと言った。


「理由、考えちゃうんです。どうして? って。たぶん、真ん中にあるの、そのピースは。だから、どうしてもなくちゃならないの」

「あの時、僕らは何を求めていたと思う?」

「時間、かなぁ、一緒にいる時間」

「そうだね。他には?」

「他に? ずるい、マスターも何か言って」

「わかった。僕は、君から愛されること」

「うん。私も、そう」

「それから、居場所、というか役割みたいなもの」

「役割?」

「そう、自分の存在意義、みたいなもの。ちょっと哲学的すぎるかな」

「大丈夫。私は、道しるべ」

「僕は、あたたかな光」

「じゃあ、やわらかな風」

「安らげる森」

「野に咲く花」

「甘い果実」

「きれいな水」

「闇を照らす炎」

「う〜ん、新鮮なお魚」

「じゃあ、ジューシーなお肉」

「何これ、ただ欲しいもの言っているだけですよ」

「だね。でも、どうだろう、僕らが求めているものが、そこに揃っている気がする」

「うん、確かに、そうかも」

「だとした、それを全部、今から揃えていけば、いいと思う。そうすることで、あの時、埋められなかったピースを埋めることが出来るんじゃないかな。上手くいかなかった理由を探すより、その方がきっと楽しい」

「確かに、楽しそう。じゃあ、何から揃える?」

「僕は、二人が暮らす森を探す」

「私は?」

「そこに咲かせる花の種を用意して」

「うん、わかった」



 その夜、恭史には、成海さんと暮らしている青い森が見えていた。周りを取り囲んでいる木々は、おそらくヒマラヤスギだろう。小鳥たちが囀り、成海さんが蒔いた種が花を咲かせ、恭史が手入れをした果実が甘く熟している。目覚めると近くの沢に水を汲みに行き、日が暮れると薪をくべ火を灯した。近くの湖に新鮮な魚を釣りに行き、森の奥で獣を仕留めて、ご馳走を作った。そんな暮らしを、手を取り合って営んでいる。しかし、見えている全てが夢だということもわかる。目を開ければ、いつもの寝室の天井が見えることもわかる。まだ、もう少し、その森の中で過ごしたいと思い、静かな眠りへの道筋を探ってみる。昨夜、灯したセードルブルーの微かな残り香を、鼻腔が探し当て、ゆっくりと眠りへ誘ってくれる。そして、成海さんの声が聞こえてくる。

「朝焼けまでは、もう少しあるから、まだ、寝ていましょう」と。




瑠花から、メールと写真が届く。写真は、どこかのファミリーと大きな犬とのスナップショット。そして、メール。



恭史へ

大事なお話です。

もう、一年が過ぎてしまって、早いですね。一度、来週、日本に帰ります。そして、また、こっちに戻ってきます。今度は、永住するつもりで。

一緒に住んでいたマンションの荷物は、その時に整理するつもりです。今まで、一緒にいてくれてありがとう。でも、お別れじゃないよ。私は、ルガーノが気に入ってしまって、ここにいることにしたけど、恭史は、ずっと大切な人であることは、変わりません。なんて、勝手かな?

でも、どうですか? 離れて暮らしてみて。そんなに悪い決断ではなかったでしょ? あなたも私も、そういう人種なんだと思います。自由気ままで、わがままで。それだから、あっという間に仲良くなったんだと思います。似た者同士で。あなたの言う「パズルのピースが気持ちいいくらに嵌った」って言うやつね。完成したパズルは、別にバラバラにする必要はないと思うので、適当な場所に飾っておいてね。でも、もし、他の人(恭史が好きになった女の人ね)が、見たくない、って言ったら、バラバラにして、ピースの半分くらいは、こっちに送ってください。記念にしまっておきます。もう半分は、恭史が持っていて。絵はもう完成させられないけどね。最後の最後まで、わがまま放題で、ごめんね。そして、いつもありがとう。


PS

私は、恭史は、あの写真の手の女の人と一緒になればいいと思います。

たぶん、キャンドルもその人にもらったんだよね?当たり?


じゃあね、来週。

瑠花



 瑠花のメールで、心が軽くなる。どこかで、もやもやしていたのだ。瑠花の言う通りだと思う。二人とも、自由気ままで、わがままで、似た者同士。来週、瑠花の荷物が運び出されると、もう、このマンションには住まなくてもいいな、と思う。成海さんに約束した通り「二人が暮らす森」を探さなくてはならないのだから。

 瑠花は、帰国すると、ほとんど全ての所有物を処分した。友達にあげたり、リサイクルショップに売りに行ったり、粗大ゴミセンターに持ち込んだり、ありとあらゆる手段を駆使して、短期間に、きれいに身軽になった。「恭史、欲しいものがあったら言ってね」と最初に言われたけれど、要る要らないを選択する時間もなかったし。これから暮らす新しい森に必要なものは、そこにはないと思えた。瑠花のフライトは、木曜日の夕方だったので、成海さんとの答えあわせは、一週間延期させてもらわなくては、ならなかった。さすがに、最後くらいは、瑠花を空港で見送りたかった。





成海さん

こんばんは。今週の「答えあわせ」ですが、

どうしても外せない用事があって、

おやすみさせてください。

来週は、予定通り、待ってます。

会えなくて、残念だけど、ごめんね。


PS

「二人で暮らす新しい森」を本格的に探し始めようと思います。

今度、相談させてください。


では、おやすみ

恭史





マスター、いや、もう、恭史さん、に変えてもいいですか?


こんばんは。

今週、会えないのですね、残念です。

ちょっと、淋しい。

「新しい森」楽しみです。

どんな森がいいですかね、色々、想像するとワクワクします。

木曜日に、会えないのなら、

もしかしたら、他の日に、お店に行っちゃうかも。

この前「こっちが予期しないタイミングで現れて、喜ばせてくれる」って言ってましたよね、だから。


おやすみなさい。

冴絵






つづく。





by ikanika | 2020-05-12 09:32 | Comments(0)


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by cafeikanika

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