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一人の居場所 #30〜#40

一人の居場所 #30


 


きみには幾つかの後悔がある。


それは時が経っても消えることはなく


いつまでも胸の深いところに潜り込んでいる。


 


別の言い方をすれば、消えることの無い過ち。


時々、忘れたころにゴソゴソと動き出し


きみの心を少しだけ揺さぶっては、


また冬眠でもしているかのようにおとなしくなる。


 


それはきみだけが抱えている物語ではない、


と誰かが言ってくれたら


きみは少し気が楽になるだろうか。


たとえ、そうだとしても


きみの過ちが薄らいだわけではない。


 


誰かの過ちは、きみとは関係の無い話だ。


きみはいつもこう思わなくてはいけない。


“許される前に自分を許してはいけない”と。


 


 


20150110


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


一人の居場所 #31


 


 


夜空は青く


深海の微生物のように遠く星が煌めく


 


夜空が青い理由をきみは尋ねる


「星がいちばんきれいに見えるのは青だから」


星が煌めく理由をきみは尋ねる


「煌めかないとそこに空があるのが分からないから」


 


そんな答えでいいのだろうか


 


更にきみは尋ねる


「あの夜空の青は雨の色?」


「雨ならば星は見えない」


「でも雨の青みたい」


「もしかしたら、夜空と雨は、青を分け合っているのかもしれない


 夜空は言う、今夜は、星の為に青をもらうよ、とか」


「じゃぁ雨は、明日は地上を潤すために青を頂戴ね、


 代わりに灰色をあげるわ。星には休んでもらって、なんていう風ね」


「そう、順番に青を分け合う」


「夜空と雨は、ずいぶん仲良しね」


「そうだとすると、星は嫉妬しているんだろうね」


「たぶん雨もね」


 


   


 


20150219


 


 


 


 


 


一人の居場所 #32


 


 


海辺の町に生まれたきみは時々夢を見る。


 


夕暮れに、女がひとり、


通りに面したカフェの椅子に腰かけ、遠くを見ている。


視線の先は海だ。


さっき暮れたばかりの海は、太陽の名残り陽で、


青とオレンジが混ざり合ったような色をしている。


女は誰かを待っている。


約束の時間より、ずいぶんと早く来たのは、


この時間の海が見たかったからだ。


女がこんなに早くから約束の場所に来ていることを相手は知らない。


あえてそのことを教えようとも思っていない。


何かの事情で、相手が偶然早くその場に現れて、


その理由を尋ねられたら答えてもいいとも思っている。


この時間の海が見たい理由を。


しかし、相手は約束の時間通りにしか現れない。


それが当り前なのだが、なんだかつまらないとも思う。


二人して約束の場所に、一時間も早く来てしまってる、


という偶然の方が、楽しいのに、と考える。


女がそんな風に思っていることを相手は知らずに、


きちんと約束の時間に間に合って、


美味しい食事をしていることに満足気でいる。


 


夢はそこで終わる。


この二人に続きがあるのかきみは気になってまた目を閉じるが、


夢の続きが見られることはない。


 


 


20150416


 


 


 


 


 


 


一人の居場所 #33


 


きみには忘れかけていることがいくつかある。


忘れてはいけないことと、


もう、忘れてしまってかまわないこととが、混在している。


ある音楽をきっかけに、


きみはそのうちの一つを思い出す。


それが、忘れてはいけないことだったのか、


忘れてしまっていてかまわないことなのか、が


きみには判断がつかない。


ただ、言えることは、


その音楽を聴くと、胸の少し奥の方が、きゅんと疼くということだ。


だからといって、それが、忘れてしまってはいけないことだとは思えない。


むしろ、そんな疼きをいつも抱えているなんて、すこし憂鬱だと思う。


きみは、それを、いつもは忘れてしまっていてかまわないことなのだと判断する。


でも、たとえば、ある夕暮れに、不意打ちにその音楽が流れ、


胸の奥がきゅんと疼くということを、


受け入れる用意だけはしておかないといけないとも思っている。


音楽が呼び覚ますその記憶に抗うことはできないと。


 


20150617


 


 


 


 


 


 


一人の居場所 #34


 


夏の終わりが見え始めると決まっていつも、


ほとんど着ることのなかった水着や浴衣を眺めて


スケジュール帳に隙間を探すきみがいる。


今さら海へは行けないことを悟ったきみは


マンションの屋上にこっそり忍び込み


過ぎ去っていく夏の夕暮れを楽しむことにする。


 


季節は、気付くときみの少し前を颯爽と歩いていく。


それは、夏に限ったことではなく、


春も秋も冬も、少し先回りをされてしまう。


そうやって繰り返される一年を、


もうなんども過ごしてきた。


 


夏は人を成長させる、という人がいるけれど、


はたして自分にそれがあてはまるのか?


なんていうことをぼんやりと考えて、夏が過ぎる。


でも、夏ならではの眩しい景色が


きみの記憶には鮮明に焼き付いている。


夏は、


きっとその記憶のどこかに、


そっと大切なものを残していったに違いない。


 


何かが成長したかどうかなんて、


すぐには分かるものじゃないよ。


 


 


 


20150814


 


 


 


 


 


一人の居場所 #35


 


時を重ねた分、


それなりに沢山の荷物を抱え込んでしまった。


 


きみは不要だと思われるものを順番に手放していく。


 


あの日、手元に置いておきたいと思っていたものを、


いとも容易に手放すことが出来る自分にきみは戸惑う。


 


今までよりも少しだけ前を向いてみると


要らないものの量が格段と増えることにきみは気付く。


 


過去に蓄積されたものは、楽しい思い出ばかりではなく


とちらかというと、後悔や恥ずかしさといった類のものの方が


多いようにきみは感じる。


 


手放すことで、そういう思いから解放されて


身軽になってゆくのが心地よい。


 


要らなくなったものの量に比例して


自分も変わったのだというのが正しい解釈だとすると、


あの日の自分と今の自分は


全く別人だと言えるくらいの


不要品の山が目の前にある。


 


それでも、まだ本当に手放さなくてはいけないものが


あるような気がしている。


それが何なのかは、まだぼんやりとして見えてこない。


 


でも、今のきみは、こう考えることが出来る、


前を向いている限り、


いずれは、はっきりと見えてくるはずだから


心配することはない、と。


 


 


20151015


 


 


 


 


 


一人の居場所 #36


 


 


あたたかな春の夜


長かった冬の余韻が


まだ部屋のあちこちに残されている


灯油の切れたストーブと


きみがいつも巻きつけていた


毛玉だらけのチェック柄の毛布と


読みかけの冒険小説


 


冬の先に用意されている春は


訪れることがないのであれば


ずっとそうであってほしいと願っていた


でも、春は訪れ、


僕らの冬の季節は終わった


 


いずれストーブは裏庭の小屋に仕舞われ


毛布は春の日差しに干された後


クローゼットの奥に畳まれる


読み手をなくした小説は


冒険を止めたままだ


 


きみの後を引き継いで読んでみたら


物語は前に進むだろうか


 


 


20160307


 


 


 


 


 


一人の居場所 #37


 


 


目の前にいくつかの道が


放射線状に広がる


ヨーロッパのどこかの街の広場のように


 


きみはどの路地を進もうかと


しばらく広場をうろうろする


陽はまだ高く、カフェに入って考えても良いくらい時間はある


 


でもきみは、どの路地にも入らずに


ただ広場を徘徊している


路地の奥に何があるのか分からない、という理由で


暗い森に迷い込んでいるという訳でもないのに


 


道が用意されていることが幸運だということに


きみは気付かないでいる


ども路地もきみを受け入れる準備は出来ている


 


きみはただ選べばいいだけなのだけれど


 


 


 


20160520


 


 


 


 


 


一人の居場所 #38


 


 


 


プールサイドに座って、


きれいなクロールをする君を


ぼんやり眺めていた。


水中を滑るように泳ぐ様は


まるで夏の魚のようだと思う。


僕には、それが出来ない、


クロールが出来ない。


水中では、カエルのように、


平泳ぎをするしかない。


だから君がプールに行こうって、


誘ってくれても、


僕は、小学生みたいに


風邪をひいてみたり、


お腹が痛くなったりしてみる。


だって、颯爽とクロールする君の後ろを


カエルみたいに追いかけるなんて


想像しただけでぞっとする。


そんなカッコ悪いのは嫌だからね。


大丈夫よ、と君は言う。


だって、泳いでる私には


後ろを泳ぐあなたは見えないから。


そういう問題ではないのだ。


 


20160701


 


 


 


 


 


 


一人の居場所 #39


 


秋の始まりと


夏の終わりが


順番に訪れる。


きみの嘘と


きみの本当と


おなじくらい順番に。


 


いつまでも夏をひきずる僕の後ろで、


順番まちの秋。


やがて夏は消え去り、


ぜんぶ秋。


 


きみのぜんぶが嘘であったらいいのに。


 


 


20160902


 


 


 


一人の居場所 #40


 


 


世の中には


君の知らないことが


たくさんある


君の知っている事なんて


例えば満天の星のたった1つくらい


でも、全部の星の事を知りたいと


思う必要はない


多くは、


ただ輝いているように見えるだけだ


 


運良く


本当に素敵に輝いている星に


出会えるとしたら


それは、君の意思とは関係なく


なんの前触れもなく


ただ君の前を通りすぎるように


訪れたりするもの


 


それに気付くかどうかは


君次第


機会は平等に訪れる


 


 


20161013


by ikanika | 2017-04-27 21:40 | Comments(0)


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by cafeikanika

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